日本におけるロシアのプロパガンダの代表格、鈴木宗男

日本で最も悪質なロシアのプロパガンディストである鈴木宗男の度重なる暴言に政治家もメディアも厳しく追及せずに、侵略戦争の弁明を放置している。本稿で鈴木宗男が流している代表的なプロパガンダを取り上げて、反論する。
グレンコ アンドリー 2025.05.29
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日本人プロパガンディストの代表格

鈴木宗男は日本におけるロシアのプロパガンダの代表格である。日本在住のロシアのプロパガンディストの中で、鈴木宗男は最も発信力と影響力を持っている。彼は国会議員であるだけではなく、「ロシアに詳しい」というイメージができており、日本の対露外交についてよく意見を求められている。安倍晋三元総理は、対露外交において、鈴木宗男の見解を参考にしていた。この一点だけを見ても、鈴木宗男がかなり影響力を持っていると想像できる。

鈴木宗男の発信力と影響力を考えれば、彼の親露プロパガンダはかなり有害だと言える。無名でロシアのプロパガンダを流す人間と比べると、害は非常に大きい。また、大衆に対する発信力だけではなく、政界における影響力も大きい。だから、鈴木が流しているロシアのプロパガンダを明確に否定しなければならない。以下、鈴木宗男の代表的な主張を取り上げ、順番に否定する。

「戦争には双方に言い分がある」

彼はこの発言をよく繰り返しているが、全くそんなことがない。確かに、利害対立が原因で起きた戦争の場合、両側に言い分があると言える。しかし、ロシアによるウクライナ侵略はそうではない。これはロシアによる領土拡大を狙った一方的な戦争だ。ロシアには、ウクライナの国土を支配する根拠は一つもないので、「ロシアの言い分」は完全な出鱈目である。自国の領土と主権を守りたいという当然な主張しているウクライナと、侵略戦争を弁明するための「ロシアが脅威にさらされているから軍事行動を開始した」というプロパガンダを同等の主張として捉えることができない。

「ウクライナはミンスク合意を破った」

鈴木をはじめ、親露プロパガンディストは「ウクライナはミンスク合意を破った」という嘘を利用して、ロシアによる全面侵略を弁明している。当然、これも全く根拠のない話だ。そもそも、ミンスク合意自体は2014年で起きたロシアによるウクライナ侵略の結果であり、ウクライナが自分の意思で結んだ合意ではない。2014年にロシアはウクライナ南部のクリミア半島を占領した後、ウクライナ東部にも侵攻して一部の地域を占領した。

ロシアの圧倒的な軍事力の前に、ウクライナは侵略を撃退する力がなく、やむを得ず「ミンスク合意」に応じた。つまり、「ミンスク合意」とはロシアは軍事力でウクライナに押しつけたものであって、ウクライナは自分の意思で望んだ合意ではない。もちろん、ウクライナはその合意に署名した以上、履行する義務は生じるが、本来これは武力で脅されて、無理矢理結ばされた合意であるということを念頭に置くべきであろう。

ところが、ロシアが武力を背景にウクライナに押しつけた合意であるにもかかわらず、それをウクライナが守り、ロシアが破ったのだ。簡単にまとめると、ミンスク合意の内容は以下の通りである。まずウクライナ東部の戦闘地域で停戦が行われる。次にウクライナ東部から外国軍が全て撤退する。その次に、ウクライナは、合意が結ばれた時点でロシア軍が占領した地域に対して、特別行政を実施し、その地域で地方選挙が行われる。そして、地方選挙で選ばれた地域住民の代表が特別行政の権限を持って地方政治を行う。

ウクライナはミンスク合意を履行した。憲法改正を行い、指定の地域における特別行政を明記した。そして、ロシア軍の撤退後、地方選挙を実施するつもりだった。しかし、ロシアは締結(2015年2月)から破棄(2022年2月)までの間の7年間、ずっとミンスク合意を破り続けた。合意で明記されている停戦を実施せず、ロシア軍は7年間ウクライナを攻撃し続け、ほぼ毎日死者が出ている状態であった。当然、ロシア軍は最初から撤退するつもりはなかった。

最終的に、ロシアは2022年2月に、自身の傀儡であるいわゆる「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を国家承認することによってミンスク合意を破棄した。つまり、ロシアは自分がウクライナに押しつけた合意を、自分で7年間破り続けた上で、自分で破棄したのだ。だから、「ウクライナはミンスク合意を守らないからロシアは侵攻した」というのは、現実で起きたことと何の関係もない嘘である。

「一にも二にも停戦」

鈴木のプロパガンダの決まり文句の一つとは、「一にも二にも停戦」という表現だ。つまり、何があってもまずは停戦すればいいということだ。しかし、この停戦の呼びかけを鈴木はロシアではなく、ウクライナに対して行っている。鈴木はウクライナが停戦を望んだら停戦が実現できるかのような言い方をしている。一方、彼はロシアに対して停戦を呼びかけない。ロシアはすでに停戦する用意があると言っているのだ。

しかし、現実はそうではない。ロシアは停戦するつもりは全くない。ロシアには継戦能力がある限り、ロシアは停戦に応じない。ロシアから見ると停戦とはウクライナ全土を征服することが難しくなるからだ。論理上、戦況がロシアにとって絶望的に悪くなった場合、軍の再編成と補給のために、一時休戦に応じることがあり得るかもしれないが、このような休戦は、ロシアに次の攻撃の準備ができたら、すぐ破られるのだ。和平交渉を行うための停戦をロシアがするわけがない。

当然、鈴木もロシアが停戦に応じるわけがないということを知っているだろう。知りながら、彼はウクライナにだけ停戦を呼びかけている。実際には、もし仮にウクライナが戦闘行為をやめれば、ロシア軍は直ちに攻勢を行い、無抵抗のウクライナ軍を破壊し、ウクライナ国土を占領する。これも鈴木が知っているだろう。つまり、鈴木は遠回しにウクライナ人に対して「抵抗されるとロシアが困るのでおとなしく殺されろ」と言っているに等しい。攻撃してきた側ではなく、攻撃を受けて仕方なく応戦している側に停戦を呼びかけるのは、典型的な侵略者を弁明するプロパガンダである。

「ウクライナは勝てない」

鈴木はよく、力の差が大きすぎるので、何があってもウクライナはこの戦争に勝てない、ロシアが負けないと言っている。彼はよく使う例えとは、一般人が相撲の力士にかかるのと同じ、ということだ。彼の論理ではどうせ勝てないから無駄な提供をやめて降伏したらいいということになっている。彼は「停戦」という言葉を使うが、先述したように、ウクライナが抵抗をやめた瞬間、占領されるので、「停戦」の呼びかけは降伏の呼びかけである。

「勝てないから降伏しろ」というのは、まず道徳的に完全におかしい主張だ。それは世の中で、唯一の正義は暴力だという意味だ。つまり、暴力が全てで、力が劣っている者は力が勝っている者に無条件に従わなければならないということになる。これは、国際社会において一切何のルールもない、力のみが通じる世界が到来するという意味だ。鈴木宗男はこのような世の中の到来を望んでいることが伺えるので、文明人ならこの主張を全く受け入れることができない。

例えば、ウクライナはロシアに勝てないから降伏すべきだという論理で行くと、日本は中国に勝てないから中国の言うことに全面的に従う必要があるということになる。例えば、中国は今、尖閣諸島は中国の領土だと言っているが、鈴木の論理では、日本は中国に勝てないから割譲すべきだということになる。また、将来、中国は日本に属国になるように要求した時に、それにも従う必要があるのだ。言うまでもないがこの論理を受け入れる日本人はほぼいないだろう。これほど鈴木の論理はおかしいものだ。

さらにいうと、そもそも何があってもロシアは負けないというのは、単純に嘘である。この戦争でロシアが負けることは、十分にあり得る展開だ。本稿が執筆された時点まで、ロシアが多くの作戦に失敗しているしウクライナも一部の領土の奪還に成功している。だから、この戦争は条件が揃い次第、ウクライナの勝利で終わる可能性が十分ある。自由民主主義諸国による武器支援が今より拡大し、勝利に必要な規模になれば、ウクライナは勝ち、ロシアが負けるのだ。鈴木宗男のようなロシアのプロパガンディストの目的は、嘘を広めて、対ウクライナ支援を妨害し、ウクライナが勝てないようにすることだ。

「武器提供が止まれば戦争が止まる」

もう一つの鈴木宗男のプロパガンダの主張とは、「西側はウクライナに武器提供を止めれば、戦争が終わる」ということだ。この主張は完全な嘘であるだけではなく、悪質な責任転嫁でもある。この主張だと、まるで戦争はウクライナの意思で続いていることになる。攻撃したロシアではなく、防衛戦をやっているウクライナが戦争継続を望んでいるという理屈だ。言うまでもないが現実は真逆だ。

繰り返しになるが、現実では、攻撃してきたロシアが戦争行為をやめれば、その瞬間に戦争が終わるが、防衛戦を行っているウクライナが戦闘行為をやめても、ロシアは戦闘行為を続ける。そして、ウクライナ軍の抵抗がなくなった状態で簡単にウクライナ全土を占領し、ウクライナ人の大量処刑、虐殺を行う。

だから、攻撃してくるロシア軍を前にして、ウクライナが抵抗をやめることができない。仮に西側による武器提供が止まったとしても、抵抗を続けるしかない。この場合、戦況はウクライナに取って非常に不利になるが、降伏は大量処刑と虐殺の意味をするので、絶望的な装備不足の状態でも、一人でも多くのウクライナ人の命を救うために防衛戦を続けざるを得ないのだ。

「自前で戦えないウクライナ」

前項にちなんで、鈴木は「ウクライナは自前で戦えないから戦争をやめるべきだ」とも言っている。つまり、ウクライナは戦いに必要な物資や武器を自力で製造、調達しているのではなく、支援国から受け取っているという理由で、戦いをやめるべきだと言っている。

ウクライナの意思でロシアが起こした戦争を止めることが物理的できないことと、抵抗をやめたらウクライナ人が虐殺されることが先述した通りだから、この時点で鈴木の主張がおかしいことがわかる。

しかし、そもそも「自前で戦えない」のが、道徳的に間違っているのだろうか。当然、全くそんなことがない。もちろん、戦略、戦術の観点から、自力で必要な装備を全て調達できるに超したことがない。しかし、様々な理由でそれができないことが多い。では、自力で必要な装備を揃えない国が侵略者に対して降伏すべきなのか。

もちろんそうではない。侵略を受けた国が、他国から支援を求めるのは当然のことである。支援の呼びかけに応じるかどうかは、各国が判断することだ。しかし、支援を呼びかけること自体は侵略を受けた国の当然な権利だし、それに応じるのも支援国の当然の権利だ。自国の主権と独立、そして国民の命を守るために支援を受けるのは何も悪いことではない。実際に第三国から武器支援を受けながら戦っている国は多くある。

国際法上、自力で戦えない国は防衛行為を行ってはいけないような規定がない。また、道徳の観点から見ても、侵略を受けた場合支援を求めるのは全く批判されるようなことではない。だから、「自前で戦えないウクライナは戦いをやめるのは当然」だというのは、鈴木宗男が勝手に作った理屈であり、この主張はどの観点から見ても根拠がない。ロシアの侵略の手助けをし、ウクライナの防衛行為を妨害するためのプロパガンダにすぎない。

大東亜戦争末期の日本に例える

鈴木宗男はたまに、ロシアの侵略を有利にするために、人命を重視するふりをしている。彼は、ウクライナの降伏を理由づけるために、大東亜戦争末期の日本の状況を例に出す。つまり、もし日本は1945年8月ではなく、半年早く降伏すれば、原爆攻撃や大空襲、沖縄戦など、犠牲者の多い出来事が起きなかったので、多くの命が救われたと言っている。これを理由に、ウクライナも早く降伏した方がいいと言っている。

この理屈は、どの観点から見てもおかしい。今のウクライナの状況は、大東亜戦争末期の日本の状況とは全く違う。まず、先述したようにウクライナにとっての降伏とは、国家消滅と民族の絶滅の意味をしている。それに対して、当時のアメリカはそこまでするつまりはなかった。もちろん、アメリカは日本の非武装化と弱体化を望んだが、日本国の完全消滅と日本民族の絶滅を狙っていなかった。

また、1945年の時点で日本はすでに勝ち目がなく、連合国との力の差は圧倒的だった。日本は同時に多くの国と戦争状態で、国際的に完全に孤立していた。それに対して今のウクライナは、十分に勝つ可能性がある。交戦国は、侵略してきたロシアだけで、他の国とは良好な関係を保っている。また、侵略してきたロシアより十倍以上の国力を持っている国からウクライナは支援を受けている。もちろん、勝利は約束されているわけではないが、大東亜戦争末の日本とは異なり、勝算は十分ある。全く異なっている状況を例に出す鈴木宗男は単に、ウクライナに降伏を促すために日本の悲劇を利用しているだけだ。

大国ロシアと仲良くするのは、日本の国益だ

鈴木宗男はエネルギー問題や北方領土問題などがあるから、日本はロシアと仲良くすべきだと言っているがこれも嘘である。エネルギー問題について言うと、確かに日本は一定数のエネルギー資源をロシアから輸入している。しかし、この状況自体は危ない。ロシアのエネルギー資源に依存することは、安全保障上、危険だ。ロシアからエネルギーを買うということは、ロシアに「言うことを聞かなければ、止めるぞ」という恐喝の手段を与えることを意味している。むしろ、ロシアからエネルギー資源の輸入が要らないようにすることは日本の安全保障体制を強くすることだ。

そして、北方領土問題を解決するためにロシアとの良好関係を保つべきだと鈴木宗男は言うが、これも嘘だ。日本は今まで、何度もロシアと領土交渉を行っているが、ロシアは全く返還に応じない。そして明確に返還しないと表明している。何があってもロシアは自分の意思で領土の返還に応じないので、領土を返還してもらえるためにロシアの機嫌を取らないといけないという理屈は現実と何の関係もない。北方領土の返還を実現するには、ロシアに媚びを売ることではなく、逆のことをやらなければならない。ロシアを返還せざるを得ない状況に追い詰めることだ。

見て見ぬふりの所属政党と国会

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